ふるさとおこしプロジェクト

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MAGAZINE ふるさと図鑑

岡山レース

岡山レース株式会社 企画営業 國光晴美さん ×
西日本旅客鉄道株式会社 中国統括本部経営企画部(総務岡山) 甲把がっぱ由香里さん

ぬくもりあるレースが生まれる現場から

岡山県赤磐市にある「岡山レース」。アンティークな刺繍機を使い、伝統と技術を守りながら、ふんわりとやさしい風合いのレース製造を続けています。青空の広がる10月、レースが生まれる現場を訪れました。

巨大な刺繍機で
生み出されるレース生地

住宅街の一角にある岡山レース。天井の高い工場内にはカシャン、カシャンと大きな音が響き渡っています。工場には、高さ4.5m、全長20mという昔ながらのエンブロイダリーレース刺繍機が3台。下に糸巻がセットされ、520本もの刺繍針が一斉にリズムを刻みながら模様を生み出していました。製造されていた生地は岡山レースのオリジナルデザイン「綿の花」。もこもことした白い綿の花の模様が形づくられていく様子はずっと見ていても飽きません。「一度にできる生地の長さは15m。柄によっては2日稼働してようやく完成するものあります」。そう教えてくれたのは岡山レースの企画営業担当の國光晴美さん。

下が製造中の岡山レースのオリジナルデザイン「綿の花」。上の白い生地は「汚れ落とし」といって模様やピッチの違い、色の違いを確認するためのいわば試し縫いをするための布地。

企画営業担当の國光晴美さん。オリジナル商品やイベントの企画から広報など幅広く担当する。

これだけ大きな機械があると全部機械がやってくれると思われがちなのですが、「刺繍機を動かすには、たくさんの人の手が必要なんです」と國光さん。まずは原反(元の長い無地布)の上下に「たすき」という布を縫うところからスタート。針の幅を調整し、糸を巻き、ゲージにかけていく作業、原反を2人がかりで機械に張るのもすべて人の手で行われています。

工場内に糸が切れたことを知らせるブザーが鳴り、同時に刺繍機がストップしました。「模様によっては糸が切れやすいものもあり、後の工程で補修担当が生地全体をチェックして、一つひとつミシンで補修をしていくんですよ」。多くの人の手と手間をかけ、美しいレース生地が出来上がっています。

昭和時代から使っている刺繍機は国産メーカー製。現在メーカーはなくなり、社員が自分たちでメンテナンスを行い、定期的に北陸から技術者を呼んで点検をしている。

レースは表糸と裏糸があり、裏糸「シャットル」の強さを手で確かめ、強さを確認していく。

手作業が生み出す
やわらかいレース生地

岡山レースならではの立体感ある刺繍は、手打ちパンチングによるもの。パンチングとはデザイン画を6倍サイズに製図し、一針ごとに手で打ち込んで型をおこす工程。ただ、どんなに壮大で緻密な柄も一筆書きで表現しなければならず熟練した技が必要です。現在、国内にあるレース製造メーカーでは、パソコンを使ってデザイン画を描くのが主流ですが、その方法では線が固く平面的な仕上がりになってしまうと言います。

「人の手だと調整がきくのでふわっとした起伏ができます。特に植物系のデザインは手打ちパンチングの方が雰囲気は出ますし、葉っぱの虫食いなどこまかい表現も可能です」とパンチャー歴40年の口石 洋さん。職人による一針ひと針の微妙な強弱が、風合いを生み出し、ぬくもりあるレース生地を作り出しています。

パンチャー歴40年以上の口石 洋さん。レースのデザイン画を全て一筆書きで描く。

中心から上下、左右に分かれて穴の有無で指示をするパンチングカード。職人は穴を見ただけで模様が想像できるという。

ミモザの図案とレース生地。

レースの種類はさまざま。生地に刺繍や穴あけ加工を施す「生地レース」、チュールやニット素材のレース、80度の湯で溶けるソルシートを使い、加工後に生地を溶かして刺繍糸だけ残る「ケミカルレース」などがあります。今治タオルの「オンケミレース」はタオル専用の糸をレース用に加工し、糸だけで構成されている部分だけ先に刺繍し、2度掛けして作成しています。

レース製造が全盛期だった頃のアンティークレース。メッシュ部分は高い技術力が必要となる。

淡く重なりあうやさしい色づかいで葉っぱを表現した岡山レースオリジナルのストール。

形を生かしたケミカルレース。基布に刺繍を施した後、80度の湯で溶かしてレース状にする。

技術への飽くなき探求心が
オリジナル商品のきっかけに

最盛期は200軒以上あったといわれる日本のレース製造工場。時代の変化とともに減少し、現在は北陸、新潟、関東に40軒残っていますが、毎日稼働しているのは半分といいます。大坂から西のエリアでは岡山レース一社のみ。國光さんは言います。「岡山レースが今も残っているのは社内に型を生み出すパンチ部門があったこと、機械のメンテナンスができたこと、技術力を持っている人がいたことが大きいです」。デザインの微調整など迅速に対応し、依頼の内容に応え、課題を乗り越えながら、高品質なものづくりを行ってきました。現在、社員8人は全員が技術者。パンチ、補修、機械のメンテナンス、縫製と部門は分かれていても、みんなが歩み寄りサポートしあう体制が整っています。

岡山レースは「日本に私たちのようなレース製造を行う会社があって、織り上げる機械があって、それを支える技術者がいるということを知ってもらいたい。」との思いから、オリジナルのレース生地製造をスタート。デザインはミモザやレンゲ、かすみ草、スズランといった季節の花や動物、幾何学模様など華やかなものからシックなものまで多様。岡山レースが得意とする、ふんわりとやわらかな仕上がりが活きるリネンやウールなどの生地を使い、洋服やバッグ、帽子などを縫製部門で一点ずつ丁寧に縫い上げています。

補修部門の藤島智美さんは18年目。糸が切れて柄がない箇所を手振りミシンで補修。布を巧みに動かしながら、刺繍械の模様と同じような糸遣いで縫っていく職人技。

異業種とのコラボレーションが
新たなものがたりを紡ぐ

西日本旅客鉄道株式会社(以下「JR西日本」)の甲把がっぱ由香里さんは、2022年12月第14回あっ晴れ認定委員会が開催された時の岡山レースの推薦人。コロナ禍で家で過ごす時間が増えた時期に、ふとしたきっかけで同社のファンになりました。その後岡山支社への異動を機に、ふるさとおこしプロジェクトを知り、百貨店のイベント会場で、國光さんに「ドキドキしながら『あっ晴れ認定に出てみませんか』とお声かけしました」。
あっ晴れ認定委員会で、岡山レースは赤磐市「えぇもん」として大賞を受賞。甲把さんは、経営企画部へ異動した現在も、岡山レースの応援団の一人として交流を深めています。

「あっ晴れ認定後の反響は大きく、レースの可能性が広がりました。最近は個人事業主やデザイナーなど異業種からの依頼も増え、さまざまなご要望に応えていくことで、パンチング技術力も格段にあがりました」。異業種とのつながりが少しずつ広がることが何より嬉しいと國光さんが笑顔で話してくれました。

JR西日本の甲把(がっぱ)由香里さん。
岡山レースさんは本当に素敵なものづくりをされていて、ぜひ多くの人に知っていただけたらと思いました。少しでもお役に立てていたらすごく嬉しいです。

阿智神社の県指定天然記念物「阿知の藤」をイメージした「花纏守(はなまきまもり)」は、サンプルとして持ち込まれた藤の花柄を参考に、依頼主とパンチャーが互いに「いいものを作りたい」と刺激し合いながら、何度も微調整を重ねて完成した美しいレース編みのお守り。

備前長船刀剣博物館から依頼された国宝「太刀 無銘一文字(山鳥毛)」の御刀印帳は、口石さんの描画力と技術力で山鳥毛の刀文の細部まで忠実に再現されています。刺繍といえば可愛らしいイメージが強いですが、岡山レースの強みである「リアルに表現できること」を知ってもらうことができたと言います。

異業種のコラボレーションによって、既存の概念を覆し課題を乗り越えていく。繊細でやわらかなレースづくりの背景には、長年築きあげてきた技術力と質の高いものづくりへの熱い想いが紡がれ続けています。

県指定天然記念物「阿知の藤」のツルのように、太く長いご縁を結ぶ縁結びの祈念が込められた「花纏守(はなまきまもり)」

基材に刺繍を施した製造途中の花纏守。目を凝らすほどの細やかで繊細な仕上がり。

国宝「太刀 無銘一文字(山鳥毛)」の御刀印帳。華やかな刃文が特徴の山鳥毛の、刃こぼれまでも再現している。

貴重な山鳥毛の刺繍のデザイン画。

現在、岡山支社ふるさとおこし本部で企画を担当する石井玲央香さん(左)と中田美由紀さん(中央)。
レースの試作品を次々に手にとり、その繊細さと美しさに盛り上がる。

試作品から広がる
新たなものづくりの可能性

パンチャーの口石さんは思いついたアイデアを図面におこし、見本機で打ち出してケミカルレースの試作品をストックしています。ストック箱には曲がり具合や色など細部にこだわったトカゲやカメレオン、シーラカンス、観光列車「SAKU美SAKU楽」の試作品も。見ているだけでも楽しくなってくるさまざまな試作品を見て「かわいい!」と感嘆の声が飛び出します。

「試作で作っていただいたSAKU美SAKU楽の見本を見ていると、一気にイメージが膨らみます。イベント等でグッズにしたり活用できたら嬉しいです」と甲把さん。見本を手にしながら、タオルやキーホルダー、ブレスレットなど次々に提案していく國光さん。「ステッチや色を変えて新たな見本を作ることもできますよ」と口石さん。「色を変えて他の電車も作ってみたり、文字を入れたりすることもできたりしますか?」「列車とセットにした工場見学ツアーも実現したいですね!」と石井さんと中田さん。笑い声とともにどんどんアイデアが具体的になっていきます。
「一緒に喋りながら企画して提案していくのが何よりも楽しいです」。と微笑む國光さん。
昔ながらの刺繍機と技術を守りながら、新たなレースの可能性をさぐる岡山レース。今後も面白い展開が広がっていきそうです。

試作で作ってくださっていたSAKU美SAKU楽のケミカルレース。

もともと、ものづくりに興味があったという甲把さん。
こんなふうに新しい企画が生まれていくのを見ているとワクワクしますね。

レースのぬくもりを手に取って感じる
工場併設のショップ

岡山レースでは工場に併設したショップで、毎月1回・第2日曜日に工場ショップを開催(1月・8月は休業)。ショップには、総レースのボレロをはじめとする洋服やストール、バッグやポーチなどレースの風合いを活かしたオリジナル商品のブランド「ito to ito」が並び、そのやさしい風合いを手に取って確かめることができます。
ショップでは、普段工場でレース製造を行うスタッフが接客を対応。繊細なレースの製造方法やデザインされた柄への想いを聞くと、たくさんの手から生まれたレースへの愛着がさらに増していきます。

(2023年10月)

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