ふるさとおこしプロジェクト

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KURASHIKI

MAGAZINE ふるさと図鑑

カモ井加工紙 株式会社

mt(マスキングテープ)|カモ井加工紙 株式会社

確かな技術と現場の声で
進化を続けるマスキングテープ

ラッピングや雑貨の装飾、アート作品の制作、部屋の模様替えなど生活のさまざまなシーンで活躍するマスキングテープ。ユーザーの創造性を刺激するマスキングテープは、国内のみならず海外からも注目を浴びている。中でも人気高いのが、岡山県倉敷市にある「カモ井加工紙」の作るマスキングテープ「mt(エムティー)」シリーズ。1923(大正12)年、ハエ取り紙の製造からスタートし、車塗装や建築現場で使われる工業用マスキングテープを作り続けてきた老舗メーカーが、日本を代表する「カワイイ」雑貨を売り出したきっかけは1冊の本だった。

ものづくりの核となる「粘着技術」を活かす

マスキングテープは「養生テープ」とも呼ばれ、塗装をするとき周囲が汚れないよう保護する粘着テープのこと。さまざまな素材や形にしっかり貼ることができ、手で簡単にちぎれるうえに、一気にはがしても破れないという高い性能が求められる。カモ井加工紙は1923(大正12)年に創業。ハエ取り紙の製造から事業を始め、1930(昭和5)年には天井吊り下げ式のハエ取り紙「リボンハイトリ」を開発し大ヒットとなる。高度成長期を迎えるとハエ取り紙で培った粘着技術を活用し、紙製の粘着テープを手掛けるように。

1984年頃に作られていた「リボンハイトリ」。岡山の方言でハエをハイと呼ぶことからこの名前がついている。

史料室に飾られている当時の広告ポスター

「マスキングテープの素材は和紙です。耐水性があり、薄いのに破れにくいんです」と営業部コンシューマー課の岡本直人さん。海外の紙テープは、クレープ紙素材が主流で、強度はあるが厚みもある。すると、塗装したときに紙の厚みの分だけ段差ができてしまう。「日本の職人さんは仕上がりを重視するため、できるだけテープの厚みが薄いものを要望されており、和紙のテープが定着したのだと思います」。

1960年代は自動車の塗装用に、70年代からは高層ビルの建築ラッシュに伴い建築現場などで使われることが増えていった。カモ井加工紙では現場の声に耳を傾け、職人の細かな要望に応えた商品ラインナップを拡充。塗装や建築現場のプロから絶大な支持を受けている。工業用マスキングテープは今でも会社の主力商品であり、売上の9割を占めているという。

現在のmt製造のきっかけになったマスキングテープへの愛が詰まったリトルプレス。

作業現場で使われていた資材が、暮らしを彩る生活雑貨へ

2006年、東京在住の3人の女性から工場見学を希望するメールが届いた。「社内ではそれまで一般の方の工場見学を受け付けたことがなく、戸惑いもありました。でも、1冊の本が送られてきたんです」。彼女たちは工業用としてしか売られていなかったマスキングテープを、独自のアイデアでラッピングやコラージュに使い、その魅力をもっと多くの人に知ってもらいたいと自主的に冊子(リトルプレス)を制作。第2弾の冊子には「マスキングテープが作られるところを紹介したい」と、各製造元に工場見学を申し込んでいた。

最初に発売した日本の伝統色を名前につけた「渋い色」シリーズも史料室に展示されている。

届いたリトルプレスは、古い工場をリノベーションした史料室に展示してある。ページを開くと、ホームセンターを巡り集めた各社のマスキングテープがカタログのように張りつけてあり、微妙な色の違いが楽しめる。マスキングテープ独特の風合いや扱いやすさ、何よりも彼女たちの「楽しい!」「好き!」が伝わってくる。その熱意に動かされた当時の常務が工場見学を承諾。工場を訪れた3人は感激し、「手でちぎって使えるし、はがしても糊が残らない」「上から文字も書ける」「重ねた時の透け感がかわいい」と熱弁。カモ井加工紙にとって彼女たちの視点や使い方はこれまでにない斬新なものだった。彼女たちの「もっとこんな色があれば…」という要望を手掛かりに、プロジェクトチームを作って商品化が進められた。

それまで工業用で重視されていたのは品質や値段。テープの長さも工業用のままでは長すぎる。どんなデザインが嬉しいのか、どれくらいの長さなら使いやすいのか。どのような販路を開拓していけばいいのか。彼女たちの意見を積極的に聞き、新たな視点で新しいマスキングテープづくりを目指した。試行錯誤を続け、2008年に文具・雑貨向けマスキングテープ「mt」20色を発売。日本の伝統色である臙脂(えんじ)や牡丹(ぼたん)など、工業用テープにはない繊細な色合いが並んだ。評判は口コミやSNSで一気に広がり、その年にグッドデザイン賞を受賞した。

もともとあった工場の構造をそのまま活かした史料室

これまでに製造された数えきれないほどのmtが展示されている

マスキングテープ尽くしの工場内

広々とした本社の敷地内でマスキングテープに関わる工場は2つ。1つ目が製造工場。真っ白な和紙にデザインを印刷し、粘着剤を塗って大きなジャンボロール(テープ巻き)を作る。この状態で保管し、注文に応じて小さい紙管に巻き取っていく。小巻は10mと7mがあり、1本幅に裁断したら出来上がり。模様のあるものは途中で切れないよう、決められた位置でカットする「狙い切り」をする。工場内は壁や引き出し、機材までマスキングテープで可愛らしく装飾されていて、工場とは思えないくらい明るい雰囲気が漂っている。

工場内の壁にマスキングテープを使って掲げられていた行動指針。

包装や梱包をする工場は、白色を基調にしたミニマルな空間。製造部製造課の山本雅彦さんが「マスキングテープを梱包する箱が白なので、それらが映えるように壁はガラス張りになっています」と教えてくれた。製品はフィルム包装をし、ロゴ入りシールを貼って完成。1個ずつ丁寧に検品し、ピッキング棚で保管される。注文が入ると、500種類以上並ぶ箱の中から選び出す。「工業用は包装単位も多く一山という感じですが、こちらはいろんな柄を少しずつ使っていただくので包装も1本ずつです。mtはいろんな形態があって、包装したりシールを貼ったりは機械でもできますが、手作業も多いんですよ」。奥ではイベント用の限定マスキングテープを5本ずつ梱包する作業が行われていた。

mt納品用に使用するシンプルな白い箱。

カモ井加工紙が製造を手掛けた、JR西日本岡山支社オリジナルのマスキングテープ SETOUCHI Masking Tape

マスキングテープの聖地として、地域活性に貢献

カモ井加工紙では、様々な建物をマスキングテープで装飾する展示会やワークショップを各地で開催している。2012年からは工場見学会「ファクトリーツアー」を年に1回開催し、全国から14000人が訪れるのだとか。2016年春の晴れの国おかやまデスティネーションキャンペーンでは、地元の倉敷において大原美術館をはじめ、JR岡山駅、倉敷駅、倉敷美観地区の人力車、レンタサイクルをマスキングテープでカラフルにデコレーションし、大きな反響を呼んだ。JR西日本岡山支社ふるさとおこし本部の岩崎 優さんは、「当時は地元の皆様との連携により、キャンペーン期間限定で、山陽線を中心に運行する列車の外装・内装にマスキングテープのデザインを施した『mt × SUN LINER』を運行し、多くの皆さまに喜んでいただきました」と振り返る。

山陽線を中心に運行する列車の外装・内装にマスキングテープのデザインを施した『mt × SUN LINER』。
(2016年晴れの国おかやまデスティネーションキャンペーンで運行)

岡山・備後エリアならではの「いいもの」を探し、その魅力を発信する「ふるさとおこしプロジェクト」では、取り組みの中で展開する「JR PREMIUM SELECT SETOUCHI」の雑貨シリーズ第1弾として、カモ井加工紙と協働して「SETOUCHI TRAIN(セトウチ・トレイン)柄オリジナルマスキングテープ」を発売。2019年3月から運行しているラッピング列車「SETOUCHI TRAIN」のデザインで、瀬戸内海のおだやかな海と、多島美の間を走る列車が描かれている。「駅で買った商品を通じてSETOUCHI TRAINのことや、カモ井加工紙さんが培われてきた技術や背景が伝わり、旅行で行ってみたいなと思ってもらえたら嬉しいです」と岩崎さん。岡本さんによると、ファンの間では倉敷がマスキングテープの聖地になっているそうだ。「“ものづくり”の精神が息づいている倉敷をこれからも一緒に盛り上げていきたいですね」。

世の中に出ることはないオリジナルマスキングテープの校正紙。色の濃度などを確認・調整する工程を経て商品化される。

JR西日本岡山支社の岩崎さん「和紙が素材なんですよね。この薄さで強度があるとはすごいです。」

「自社でできることは研究を重ね、できないことについては他社と協力しながら新しい技術を取り入れ、進化していけたら」と岡本さん。

ユーザーの声をヒントに、進化し続ける

20色から始まったmtは、次々に新商品が生まれ累計2000種類以上にも。また、手帳やノート、ラッピングなどに使う文具向けのほかに、部屋の壁や床に貼って空間を装飾できるものや、ラッピング袋やカジュアルな熨斗として使用できる「mt wrap(エムティーラップ)」なども展開している。窓ガラス用の「mt CASA Shade(エムティーカーサシェイド)」は、不織布素材で紫外線を99%カットし、障子紙のような風合いで窓ガラスを装飾できるテープだ。カモ井加工紙のものづくりの姿勢は、昔からずっと変わっていない。現場の声を丁寧に聞き、喜んでもらえる商品をつくること。岡本さんは言う。「イベントでお客さまと喋っているときにヒントをいただいて、それをもとに新しい商品ができていくこともあります。我々が気づかない目線でお客さまからアドバイスをいただけるのはとても有難いです」。

マスキングテープの活躍の場は、医療や介護、教育など幅広い分野へと広がっている。「mt ちぎはり」はちぎり絵のような感覚で楽しめるテープ。「ワークショップのときにお子さんがちぎるのが大変という声を聞いて、力の弱い方でもちぎりやすいものを開発しました」。透け感のある特に薄い和紙を使い、ちぎって貼って、重ねていくと色に深みが増す。失敗してもすぐにはがせるし、貼る場所を選ばない。誰でも簡単に始められる。本格的なアート作品の制作はもちろん、病院で患者さんが階段を楽しく歩けるようにとマスキングテープで絵を描いたホスピタルアートの取り組みや、幼児教育の指先トレーニングなどさまざまな現場で活用されている。

「会社近くの介護施設でリハビリテーションの一つとして使用していただきました。ハサミを使わないので安全ですし、手を動かすことで達成感が生まれるようです」。自分らしさを表現するツールとして、それぞれの人に寄り添った使い道が広がっている。

(2020年3月取材)

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