MAGAZINE 人・もの・こと
知れば、もっと好きになる。
瀬戸内の魅力を発信。
渡邊 琢磨(備前焼作家)
岩崎 優(JR西日本 岡山支社 ふさとおこし本部長)
辻 麻衣子(株式会社 辻本店 取締役 社氏)
SETOUCHI TRAIN|渡邊 琢磨×JR西日本 岡山支社 岩崎 優×株式会社 辻本店 辻 麻衣子
知れば、もっと好きになる。
瀬戸内の魅力を発信。
2015年3月にスタートしたふるさとおこしプロジェクト。その中でも軸となっている「ふるさとあっ晴れ認定委員会」について、第1回から認定委員を務めている渡邊琢磨さん、辻 麻衣子さん、2019年6月にふるさとおこし本部長として着任された岩崎 優さんにお話を伺いました。
ふるさとあっ晴れ認定とは
岡山・備後地域に点在する愛される逸品や誰かに教えたくなる素敵な景色など、品質の良さ・希少性・物語性に魅力を感じる「いいもの(えぇとこ・えぇもん・うめぇもん)」を掘り起こし、その魅力を全国に発信する活動です。「いいもの」について情報収集を行い、現地を訪れて選定。地域を知り尽くした各分野の専門家から構成される「ふるさとあっ晴れ認定委員」が品評し認定を行う「ふるさとあっ晴れ認定委員会」を開催しています。
地域に眠る「いいもの」に光を当てる
「ふるさとあっ晴れ認定委員会」は計12回開催し、合計173件のいいものを認定されていますね。
岩崎 優さん(以下岩崎さん) 8回までは岡山・備後地方をエリアで区切って開催しました。9回は「食」、10回は「果物」にスポットを当て、11回は瀬戸内のさらなる魅力を発掘する「せとうち」。それぞれテーマを掲げていいものを認定しています。お二人が印象に残っているものはありますか?
渡邊 琢磨さん(以下渡邊さん) 1回の「早雲蜜芋」ですね。蜜芋がスイートポテトみたいに甘くて、なめらかな食感が衝撃的でした。井原で地元の方が芋を栽培し、その中から美味しい種芋を残し、受け継いできたという背景も興味深かったです。
岩崎さん 石材店が販売されているので、蜜芋を熟成させる室(むろ)も巨大な石造りで素晴らしいですよ。
渡邊さん 8回の「撫川うちわ」も素晴らしかったです。江戸時代から受け継がれてきた技術で、うちわの上の雲形の模様が俳句の文字をひと筆で書いたものになっているんです。文字群を上下の半分に分け、2枚の紙に写して切り抜いて糊で継ぐという工程を聞いたときはすごいなと思いました。すべて手作業で行われるので一人の職人が作れるのは年間150本。そのこだわりや技術は後世に伝えていくべきものですね。
辻 麻衣子さん(以下辻さん) 私が印象的だったのは10回の自然派ワイン「ル・カノン ミュスカ・ダレクサンドリー」。フランスで20年腕を磨いてきた醸造家・大岡弘武さんにお会いできたことは、同じお酒を造る者として感動的でした。ワインの味も爽やかでした。9回の「浅漬けオリーブ完熟」も印象深いです。塩気が強くなく、オイリーで今まで食べたことない味でした。
岩崎さん お一人で農園をされている金辺オリーブ園さんですね。岡山駅ふるさとキューブでの試食販売にも来てくださっています。
地域は発見の宝庫
12回は「挑戦」というテーマで開催されました。
岩崎さん ふるさとおこし本部へ着任して12回を開催するとき、認定するものがまだ残っているのかなという不安があったんです。でも、探してみるとまだまだいいものがたくさんありました。
渡邊さん 点字用紙をリサイクルした封筒や小魚をプレスしたチップス。技術が認定されたものもありましたね。
岩崎さん 津山の事業者さんが手掛ける「MADE IN TSUYAMA」ですね。高い技術を持ち今まで縁の下で支え続けてきた方々が自社ブランドを立ち上げたということで応援したいという思いから候補に上がりました。ネクタイやジーンズなど品質の良さは折り紙つきです。
辻さん 津山は勝山からも近いですが、今回の認定で初めて知りました。
渡邊さん 縫製技術が素晴らしかったですね。岡山には、木工やガラス、陶芸などものづくりをしている方がたくさんいます。岡山・備後は民芸の精神も息づいています。
岩崎さん ものづくりの技術や伝承文化など地域は発見の宝庫。今後も実際に現地へ足を運び、いろんな切り口から魅力を発掘していきたいと思います。
素材と技術が出会って、新しい価値を生み出す
ふるさとおこしプロジェクトでは認定を受けた事業者との商品開発も手掛けていますね。
岩崎さん 素材力、技術力を生かし協働して開発した商品「CHU-HIシリーズ」や「蒜山ショコラ」などご好評いただいております。
渡邊さん 県外に行くときにはCHU-HIシリーズをお土産にしています。僕のおすすめは、昼に岡山白桃を飲んでいただいて、夜は瀬戸田レモンを飲んでいただくこと(笑)。
岩崎さん 「岡山白桃 CHU-HI」は、期間限定ですが、この冬から新幹線の車内販売でも飲んでいただけるようになりました。
辻さん 「せとうちのおいしいシリーズ」も好きです。食べ切りサイズで、いろんな種類があって。
岩崎さん 味はもちろんですが、パッケージの裏には、商品が作られている背景を紹介しています。おいしいだけでなく、手にしたひとつのお土産から、その土地の風景など思い浮かべ、地域に根差す人たちの思いや営みを知っていただければと思いました。そして、それがせとうちの魅力となり、訪れるきっかけになればありがたいです。
誇るべき地元に対する思い
認定委員お二人の地域活性への思いを教えてください。
辻さん 我々は地元のものを使い地元の風土で酒を醸す地酒メーカーです。お酒を通じて多くの方々に勝山を知ってもらい、訪れていただきたい。外からお客様に来ていただくことが地域活性の一つになるんじゃないかなと考えています。
辻さん 今でこそ勝山は「のれんの町」として知られていますが、30年前は誰も歩いていないような町だったんです。父の世代の方々がこれじゃいかん、ということでのれんを掛け始めることによって町に彩りが出てきたり、「勝山のお雛まつり」を開くことで少しずつ認知されていきました。辻本店でもお酒を造るだけではなく、蔵をレストランに改装してコンサートを開いたり、カフェやショップをオープンさせたり、ただ待っているだけではなく、お客様に足を運んでもらう努力を重ねることが大事だと感じています。
辻本店のショップにはお酒にまつわるいろんなお土産が並んでいました。
辻さん 地元企業の方と協働でつくったゼリーやマカロン、ビール、酒粕入りの石鹸などが並んでいます。私、コラボ好きなんです(笑)。普段は伝統を守り続けていく酒造りをしていますので、外から来られた方やまったく違う業種の方々と交流することで刺激され、お酒の新たな魅力に気づいたり、活力をもらっています。
渡邊さん 伝統という言葉が出てきましたが、備前焼は釉薬をかけずに焼き締めをするという伝統を千年守り続けてきた、世界的にも珍しい焼き物です。
備前焼は、日本に古くからある陶磁器窯の中でも、中世から現在まで生産が続く代表的な6つの産地「日本六古窯(ろくこよう)」の一つ。2017年春には「日本遺産」に認定されていますね。
渡邊さん 焼き締め陶のメッカとしてゲストハウスなどを整備し、世界中からアーティストや多くの人に備前の地を訪れてほしいです。以前、備前焼に親しんでいただきたいと思い、ふるさとあっ晴れ認定委員の寺田真紀夫シェフと一緒に備前焼の器でお客様をもてなすイベントを開きました。
辻さん 楽しそうな企画ですね。
渡邊さん 普通はシェフがマスターをするところを、寺田シェフには食事作りを担当してもらい、器をつくっている僕がバーのマスターを務めました(笑)。皆さん、ユニークな企画だと喜んでくださっていましたよ。
岩崎さん 岡山駅でも地酒の立ち呑みイベントを開くことがあるので、備前焼の器で楽しんでいただくというのも面白いですね。備前焼のぐい呑みをたくさん並べておいて、好みの器で飲んでいただくとお酒の味わいも増しそうです。これからもヒントをいただき、さまざまな企画で「いいもの」を発信していきたいです。
瀬戸内でしかつくれない思い出を
今後の取り組みとして挑戦したいことはありますか?
岩崎さん これからも地域の魅力発掘は引き続き行っていきますし、認定を受けた事業者さんとのコラボもより加速していきたいと考えています。昨年末に、岡山駅新幹線改札内のカフェ「CAFÉ BAR Muscat(カフェ バール マスカット)」で千屋牛焼肉丼や地酒呑みくらべセットなどメニュー展開して提供しているので、そういった「食」で地域の魅力を伝える取り組みも、更に増やしていきたいと思っています。
辻さん 出張で立ち寄った先で、地域を感じる食との出会いがあるのはいいですね。
岩崎さん これからは「えぇとこ」にもっと光があたる取り組みを進めたいと思っています。岡山・備後でもオンリーワンの魅力がある備前長船刀剣博物館をはじめ、お酒好きであれば酒蔵巡り、窯元の作家さんから説明を受けながら登り窯を見せてもらうなど、現地オプショナルプランをとりそろえてさまざまな体験ができる。そういったせとうちの旅をもっと楽しめるような企画を考案中です。
辻さん 観光だけで終わらない、旅の良い思い出にもなりますね。
渡邊さん 岡山は白桃が有名で、山に桃の木があるじゃないですか。3月頃の初春から花が咲くんですが、とてもきれいなんです。知り合いの桃農家さんの農園で桃の花見をしているんですが、もっと多くの人に桃の花の美しさを知ってもらいたいと思うんですよね。
岩崎さん 桜の花見もいいですが、桃の花見も岡山らしくていいですね。「えぇとこ」は電車やバスでは遠いところもあります。車を運転しない方も増えていますからタクシーなどを利用するプランなど、もっと丁寧に瀬戸内の魅力あるスポットを楽しんでいただける仕組みを考えていきます。
渡邊さん 年々外国からの観光客も増えていますし、今年はオリンピックも開催されますからね。
岩崎さん 海外からの方も含め岡山・備後が中四国の宿泊滞在拠点と考えていただけるよう、JR岡山駅が地域情報を集約し、魅力発信していくよう尽力します。地元を知り尽くした認定委員の皆さんにはプロの視点やローカルな情報、アイデアなど今後もサポートしていただけると嬉しいです。今後ともよろしくお願いします。
(2020年1月/真庭市勝山・辻本店にて取材)
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