
建部駅
MAGAZINE あの駅この駅
SAKU美SAKU楽
ふるさと建部の財を守る会
【あの駅この駅】建部駅
歴史ある駅舎がつなぐ
地域が元気になるきっかけづくり
岡山市と津山市を結ぶJR津山線に、淡いピンク色の観光列車「SAKU美SAKU楽(さくびさくら)」が、やさしい時間を運んでくる。
2026年3月から、下り列車が建部駅(岡山市北区建部町)に停車するようになったSAKU美SAKU楽。駅では地元住民による温かいおもてなしが行われ、乗客の心を和ませている。こうした取り組みを支えているのが、地元団体「ふるさと建部の財(たから)を守る会」のメンバー。駅舎の清掃や駅事務室を活用した読書会などを通じ、明治時代の開業当時の姿をとどめる駅舎を、地域の財として守り続けている。
自然豊かな津山線を走る
淡いピンク色の観光列車
SAKU美SAKU楽は、津山線を走る観光列車で、土・日・祝日を中心に岡山―津山間を1日1往復する。車窓からは四季折々の風景を楽しむことができる。
淡いピンク色のラッピングが印象的で、「身体も心もあたたかく、美しきを作るたびへ」をコンセプトに、名湯・美作三湯や県北の桜の名所など、自然豊かなエリアへといざなう。車体には、風に舞う花びらをモチーフにしたデザインが施され、沿線に彩りを添える思いが込められている。
車内はグリーンやブラウンを基調とした落ち着いた空間で、岡山県北部の山や森の中で過ごすような時間をイメージ。真庭市勝山ののれんや、建部町出身の水彩画家・おかだ美保氏による作品が、旅情を引き立てている。
途中駅では数分間の停車時間が設けられており、乗客は車外に出て写真撮影や駅舎見学を楽しむことができる。各停車駅で行われるおもてなしや催しも、観光列車ならではの魅力のひとつ。予約制の特製弁当や限定グッズの販売があるほか、車内ではアテンダントが沿線の案内を行い、旅をサポートしている。











明治の姿を残す木造駅舎
建部駅は、SAKU美SAKU楽の停車駅のひとつ(2026年4月時点)。津山線がまだ「中国鉄道」だった1900年(明治33年)4月15日に開業した。
開業当時の姿を今に残す木造駅舎は、どこか懐かしさを感じさせる佇まい。映画のロケ地としても知られ、1998年公開の映画『カンゾー先生』の撮影が行われた。2006年には国の登録有形文化財に指定され、現在は岡山市が管理している。

木造平屋建、瓦葺、花崗岩の切石で囲まれた建部駅。駅舎は国の登録有形文化財指定。







朱赤とクリーム色の国鉄カラーの車両。ノスタルジックな列車に出会えるのも津山線の魅力のひとつ。
建部駅は地元の請願によって設置されたもので、当時の事業費は3千円。隣村とともに寄付を募り、整備されたという経緯を持つ。住民の思いが込められた駅舎は、今も地域の人々に愛され、大切に利用されている。



現在、建部駅の維持を手伝っているのが「ふるさと建部の財を守る会」だ。月に1度行われる清掃活動には毎回15人前後が参加し、多いときには20人を超えることもあるという。
事務局の森本美登里(もりもとみどり)さんは「夏になると虫が増えて、市の定期清掃だけでは追いつきません。それなら自分たちで、と皆んなで清掃を始めました」と話す。
駅舎では、季節にあわせた手作りの飾り付けや、季節の花が飾られている。取材に訪れた4月下旬には、端午の節句に合わせてカブトが置かれ、シャガの花がノスタルジックな駅舎に彩りを添えていた。「どれも地域の皆さんが持ってきてくれたものです。大切に育てた花を見ていただけると嬉しいですし、駅に飾ることで華やぎ、訪れた人の癒しにもなれば。」と森本さん。

ふるさと建部の財を守る会・事務局の森本美登里さん






世代を超え集まった住民が
笑顔とシャボン玉で歓迎
「2026年3月から、SAKU美SAKU楽が建部駅に停車するようになりました。皆さんによるおもてなしが本当にあたたかくて好評です」
そう話すのは、JR西日本 岡山支社・ふるさとおこし本部の三島健嗣(みしまけんじ)さん。これまで停車していた福渡駅の改装工事に伴い、建部駅での停車が実現した。

JR西日本 岡山支社・ふるさとおこし本部の三島健嗣さん。
「建部駅ののどかな風景にSAKU美SAKU楽の列車が現れると一気に華やぎますね」
SAKU美SAKU楽の運行日だったこの日、ご高齢の方から親子連れまで、幅広い世代の住民が集まり、列車の到着を楽しみに待っていた。
下り列車が停車する約10分の間、地元の有志が集まり、手機振りやシャボン玉で乗客を出迎える。駅舎には「ようきてつか〜さった!! 建部の町」の、おもてなしの横断幕が掲げられ、到着とともににぎやかな空気に包まれた。
たくさんのシャボン玉が空に舞い、「いらっしゃーい!」「こんにちは!」「ようこそ建部へ!」と集まった地域住民の元気な声が響く。列車から降りた乗客たちは、駅舎を背景に写真を撮ったり、地元の人と会話を交わしたり、思いおもいの時間を過ごしていた。





SAKU美SAKU楽に乗っていた高知県から訪れたという男性は「四国以外の地域の観光列車にも乗ってみたいと思い、昨日は『La Malle de Bois(ラ・マル・ド・ボァ)』、今日はSAKU美SAKU楽に乗車しました。今日はシャボン玉で迎えられ、とてもきれいで印象的でした。たくさんの方が出迎えてくれて、地元の方の熱意が伝わってきました」と話す。
鳥取県から来た人は「楽しそうに迎えてくれる様子に、こちらまで温かい気持ちになりました」と笑顔を見せてくれた。

駅では本物の駅長帽をかぶっての記念撮影もできる。





停車中には、登録有形文化財である駅舎の解説に加え、八幡温泉や鉄道遺産、建部井堰(いせき)の紹介も行われる。建部井堰は津山線の車窓からは見えないため、写真パネルを使った説明が特に好評だという。
列車が出発する際には、再びみんなでお見送り。「ありがとう、また来てね」という声が飛び交い、あたたかな触れ合いが生まれていた。


本で人と人をつなぐ
駅舎を地域の交流の場に
月に1度、建部駅舎の清掃活動を行っている「ふるさと建部の財を守る会」。その母体となったのは、建部にある古刹・成就寺(じょうじゅじ)の檀家の婦人部での活動だという。
事務局の森本さんは、「もともと婦人部で町内の老人福祉施設の清掃を続けていましたが、コロナ禍で活動ができなくなりました。そんな折、所用で訪れた建部駅で、虫やクモの巣など市の定期清掃だけでは行き届いていない様子を目にし、市の許可を得て駅の清掃を始めたのです」と振り返る。
その後、参加者の増加に伴い、活動は「ふるさと建部の財(たから)を守る会」へと発展。さらに、駅舎の空間を活用した取り組みも始まった。
そのひとつが「駅舎de読書会~建部駅文学館プロジェクト~」である。かつての駅事務室を活用し、本や文学に親しむ場を開いており、参加は無料。毎回20人前後が集まり、遠方から足を運ぶ人もいるという。


建部駅の旧事務室には、地域住民から寄贈された本や、岡山市が購入した「坪田譲治文学賞」受賞作品が並ぶ。
この読書会は、岡山市が掲げる「文学創造都市おかやま」の取り組みの一環として「岡山市市民協働推進モデル事業」に位置づけられている。
活動内容は多岐にわたる。メンバーそれぞれが好きなことわざや故事成語を持ち寄り、31語を集めて日めくりカレンダーを制作・販売したほか、小学校の国語教科書の読み上げ会や絵本の読み聞かせなども行ってきた。
森本さんは「本は世代や性別を問わず親しまれるのが魅力です。同じ教科書をきっかけに、世代を超えて会話が弾むこともあります」と話す。大人になってから絵本に触れることで、新たな気づきを得ることもあるという。

駅舎de読書会メンバーの好きなことわざ・故事成語を31語集めた日めくりカレンダー。駅で販売も行っている。


取材日だった2026年4月は、サイレントブッククラブ企画「静かな読書会」の初開催日だった。子や孫とともに三世代で参加した羽原真由美さんは、隣町の赤磐市から訪れたという。
「図書館が好きで、各地を訪ねながらおすすめの本を読むのが楽しみです。今回は山陽新聞の記事で知り、レトロな駅舎で読書ができる点に興味を持って参加しました」と話す。

図書館めぐりが楽しみだと話す羽原さん。建部駅で初開催となった「静かな読書会」第一号のお客さま。


時折停車する列車を眺めるのも駅ならでは。待ち合わせに少し早く訪れて本を開いてみても。
メンバーの江田洋子さんは「建部駅は周囲がのどかで静かな環境にあり、サイレントブッククラブに適した場所です。多くの方に楽しんでいただければ嬉しい。あと、列車で来ることができるので、お酒と本のイベントなどもやってみたいですね」。
今後本に関するさまざまな企画を通じ、建部駅を舞台に人と人をつないで、地域のにぎわいにつなげていく考えだ。

ふるさと建部の財(たから)を守る会の江田洋子さん。
「駅舎de読書会〜建部駅文学館プロジェクト〜」の絵本の朗読を担当している。


SAKU美SAKU楽のおもてなしに駆けつけてくれた地域の皆さんと
地元住民が楽しみながら
続けていくおもてなし
2026年5月24日には、SAKU美SAKU楽のお出迎えに加え、「建部駅おいでぇまつり」の開催も予定されている。抹茶体験やコーラス体験、グルメ出店など、訪れた人だけでなく、地域に暮らす人も一緒に楽しめるイベントにしたいです、と森本さんが意気込む。

三島さんは「建部に興味を持ってもらえることは、地元の方の誇りでもあると思います。地域の人が楽しみながら参加していることが、この取り組みの大きな力になっています」と話す。
福渡駅の改装後には、上りは福渡駅、下りは建部駅に停車する形が実現すれば、建部町全体の活性化にもつながると期待されている。
森本さんは「建部の文化や風景を守り、伝えていくことが私たちの役目です。建部の暮らし、地域の人こそが宝物。みんなが楽しめることを考え、建部の魅力をもっと伝えていけたら」と語る。
歴史ある駅舎にあふれる人々の笑顔が、訪れた人の心を温かくしていた。
(2026年4月取材)



SAKU美SAKU楽の見送りを終えて「またね〜」と家路へ向かう地域の皆さん。
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