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岡山海苔弁「黒」

開発秘話インタビュー

岡山海苔弁「黒」|JR西日本 岡山支社・ジェイアールサービスネット岡山・岡山県漁業協同組合連合会・三好野本店

瀬戸内海のストーリーを詰め込んだ駅弁
岡山海苔弁「黒」

JR西日本岡山グループは岡山県漁業協同組合連合会、三好野本店と協働し2024年4月10日、岡山県産のおいしい「黒」を詰め込んだ海苔弁当「岡山海苔弁『黒』」を発売しました。柔らかく口どけの良い「岡山若のり」や岡山を代表する地魚「クロダイ」、勝英地方名産の黒豆「作州黒」のおいしい「黒」を軸に、豊富なおかずが楽しめる駅弁です。「岡山海苔弁『黒』」の企画・開発に携わったメンバーに話を聞きました。

話を聞いたのは、JR西日本 岡山支社 ふるさとおこし本部の松本崚太郎さん、ジェイアールサービスネット岡山 営業部の岡純一さん・平木紀香さん・大田万美加さん、岡山県漁業協同組合連合会 第一業務部 海苔課の山本和弥さん・丹下雅史さん、三好野本店 取締役工場長の野崎康文さんです。

岡山海苔弁「黒」

クロダイの消費拡大により
海苔養殖への被害減少を狙う

はじめに『岡山海苔弁「黒」』について教えてください

松本 崚太郎さん(以下 松本) 「岡山海苔弁『黒』」は岡山県のおいしい黒をテーマに開発した駅弁です。岡山県産海苔の黒、岡山県産のクロダイの黒、岡山県産黒豆「作州黒」の3つのおいしい黒に加えて、岡山県産の牛肉や鶏肉(森林どり)を使ったおかずも入っています。使っている米も岡山県産の朝日米です。

野崎 康文さん(以下 野崎) 「海苔弁当」といえばスタンダードなイメージがあると思いますが、「岡山海苔弁『黒』」は岡山県の特産品が詰まった、岡山県らしさを感じられる「豪華版海苔弁当」です。ごはんの量はやや控えめで、お茶碗1杯弱くらい。その分色々なおかずを入れているので、女性や小食の方でも楽しめるお弁当です。

松本 駅弁ですので新幹線の中で食べる需要も考えて、お酒のおつまみとしても楽しめるお弁当になっています。幅広い方にご満足いただける内容です。

JR西日本 岡山支社 ふるさとおこし本部 松本 崚太郎さん

三好野本店 取締役工場長 野崎 康文さん

こだわりの詰まった「岡山海苔弁『黒』」は、ジェイアールサービスネット岡山とJR西日本 岡山支社が参画する岡山県水産連絡協議会での話がきっかけで開発がスタートしたという。

「岡山海苔弁『黒』」が開発された経緯を教えてください

岡 純一さん(以下 岡) 岡山県の水産連絡協議会の会議で「クロダイが養殖の海苔や牡蠣を食べてしまうという被害が増え、困っている。クロダイの消費拡大ができれば、クロダイの数が減って被害も減るのではないか。JRの駅で売れるような、クロダイを使ったお土産みたいな商品ができないだろうか」という話が出たことが始まりです。

平木 紀香さん(以下 平木) 当初は、クロダイを使った加工品を考えていましたが、岡山駅では1日に2000〜3000個の駅弁が売れていることもあり、消費拡大の点からもクロダイを使った駅弁の開発がスタートしました。

ジェイアールサービスネット岡山 営業部営業課 岡 純一さん

ジェイアールサービスネット岡山 営業部営業課 平木 紀香さん

平木 海苔弁当はお弁当の中ではポピュラーで、定番といえる商品なのですが、実は岡山駅には、海苔弁当のラインアップがありませんでした。

 岡山県は海苔の産地でもあり、おいしいと好評で、現在販売している「岡山海苔天」シリーズもとても人気です。海苔とクロダイという「食べられる側と食べる側」相対するものが弁当の中で共存しているおもしろさもあります。
クロダイを食べて消費が拡大し海苔養殖への被害が減少、そして岡山の海苔の良さを知ってもらって海苔の消費も拡大。このような良い流れが生みだせたらいいなと。

写真中央がクロダイ(チヌ)の竜田揚げ

岡山の特産を楽しめる
バラエティー豊かなおかず

クロダイと岡山海苔という2つの食材を使った海苔弁当。商品開発にあたり製造を依頼したのは三好野本店。三好野本店は長年にわたり岡山の地で駅弁や総菜を製造・販売している。さまざまなノウハウを生かし、今回の海苔弁当の開発が始まった。

「岡山海苔弁『黒』」で工夫した点などを教えてください

野崎 もともと海苔弁当はリーズナブルでおいしく食べられることを目的にした弁当です。ご飯の上に海苔が敷かれ、おかずは白身魚フライや鶏のから揚げ、ちくわの天ぷらといったスタイルが定番ではないでしょうか。しかし今回は、敢えて色々なおかずを入れて豪華にしようと。そしてせっかくですから、岡山のものをなるべく多く入れようと思いました。

 クロダイと岡山海苔・作州黒以外では、岡山県産の牛肉もおすすめです。牛バラ肉をしぐれ煮にしていて甘辛い味わいがごはんとよく合います。照り焼きにした岡山県産森林どりのモモ肉も、弾力がありながら柔らかくてジューシーです。

野崎 ほとんどのおかずが、手づくりなのもポイントです。レンコンのカラシマヨネーズ和えは、三好野本店が自社で粉末カラシをマヨネーズに混ぜて作っているのですが、ほどよくピリ辛で食欲をそそる自慢の味わいです。

 海苔ごはんの上にのっている辛子明太子も外せない一品です。一般的な海苔弁当より特別感があって美味しさも感じられるものを色々と検討してたどりつきました。

野崎 デザートのような位置付けでサツマイモきんとんと黒豆を入れています。「作州黒」は艶があり、柔らかく滑らかな舌触りが特徴です。黒い海苔やクロダイの「黒」と繋がる点もポイントでしたね。

試行錯誤の末に辿りついた
クロダイの竜田揚げ

クロダイは関東では「クロダイ」、関西では「チヌ」という名前で親しまれ、釣り人にも人気の魚だ。白身の淡白さを持ちながら旨みのある味わいが特徴で、岡山県が2021年に実施した「おかやま旬の魚総選挙」では「秋の魚」でチヌが1位に輝いた。

山本 和弥さん(以下 山本) クロダイは岡山を代表する地魚です。春に産卵期を迎えるので、秋から冬にかけてがクロダイの旬で大変おいしい魚なのですが、サーモンなど輸入水産品が安く入手できることや、魚介類全体の需要が減少していることもあり、クロダイの消費も減少しています。

山本 クロダイが海苔や牡蠣を食べてしまう被害が増えたり、魚介類全体の漁獲量が減少しているのは、海水温上昇による環境の変化が理由といわれています。クロダイは高水温に強い魚なので、個体数を増やしていると予想されています。もともとは海中の藻類をエサにしていましたが、海水温が上昇したことにより藻類が減少し、養殖されている海苔や牡蠣がクロダイにとって絶好のエサになっているのです。

丹下 雅史さん(以下 丹下) 駅弁のおかずで広くクロダイを知ってもらい「クロダイっておいしいな」と感じていただければ、今後のクロダイの消費拡大や海苔・牡蠣への被害減少に繋がるのではないかと期待しています。

山本 加えて岡山の海苔のおいしさを知ってもらえれば、一石二鳥ですね。

岡山県漁業協同組合連合会 第一業務部 海苔課 山本和弥さん

岡山県漁業協同組合連合会 第一業務部 海苔課 丹下雅史さん

岡山県漁業協同組合連合会が配布している「岡山のりなるほど読本」

イラストの図解付きで、わかりやすく海苔の魅力をつたえるパンフレット

三好野本店は駅弁を長く製造しているが、サバやアジ・タイ・サワラなどは多く調理してきたものの、クロダイを弁当や総菜で使ったことはこれまでになかったという。

野崎 クロダイはどのような調理法がいいのか未知数でした。価格とのバランスもあります。塩麹焼き・から揚げ・フライなどなど、本当に何回も試作を繰り返しました。そんな中、試食した人の多くが「おいしい」と口をそろえて言ったのが竜田揚げだったのです。
クロダイは皮が厚めなのが特徴なのですが、竜田揚げにすることで皮もおいしく食べられます。また下味もしっかりとしているので、臭みもなくクロダイのおいしさを引き出してくれます。

一番・二番摘みのみを使う
風味豊かな「岡山若のり」

100年以上の歴史があるという岡山県の海苔養殖。年間約1.5億枚の生産量を誇り、その規模は全国でトップ10内に入る。岡山の海苔養殖は東は牛窓(瀬戸内市)、西は笠岡諸島(笠岡市)まで瀬戸内海沿岸で広く行われている。

山本 全国的に海苔の産地といえば、有明海が有名ですよね。有明海は干潟が広がる遠浅の海なので、潮の干満を利用した養殖方法です。満潮時に海水に浸かり、干潮に海苔が海から出て日を浴びます。一方、瀬戸内海では海水面に網を浮かべて養殖する「浮き流し」養殖と呼ばれる常時海水に浸っている方法で育成しています。高梁川・旭川・吉井川の三大河川から豊富な栄養が海に流れ込むので、風味が豊かで、口どけが良いのが岡山のりの強みです。
有明では年中柔らかな海苔が採れますが、瀬戸内海では、シーズン初期は柔らかな海苔、そしてシーズンが進むにつれて海苔の質が強くなっていきます。冬場に収穫するしっかりとハリのある海苔は、巻き寿司など強度が必要な料理でも活躍します。

丹下 岡山ではシーズン最初の一番摘みと、そのあとの二番摘みの海苔を「岡山若のり」というブランドで販売しています。「岡山海苔弁『黒』」で使っているのは、この「岡山若のり」です。栄養が豊富な岡山県沖合で養殖された、シーズン初期の風味豊かで柔らかな海苔を楽しんでもらえたらと思っています。

野崎 今回開発した海苔弁は、ごはんの上に醤油味のおかかを載せ、その上に海苔を載せています。さらにその上から醤油をかけているので、醤油と海苔とおかかの風味、そしてごはんと合わさった四重奏が楽しめます。ちなみに醤油も岡山県産ですよ。
納品される「岡山のり」は、とてもきれいな海苔です。お弁当は見た目の美しさも大切ですから。

育苗した網を海面に張り込み、網を毎日数時間干すことで健全なのり芽を育てる

「岡山海苔弁『黒』」のパッケージにも採用した、海面の枠の中に網を張って養殖する「浮き流し」養殖の風景

「もぐり船」と呼ばれる船で海苔網の下にもぐって海苔を刈り取って収穫

岡山らしいパッケージと
インパクトのあるネーミング

 コンセプトを持って企画した駅弁なので、名前もインパクトがあるものにしたいと考え、海苔とクロダイをメインに据えた弁当で、海苔の黒い色と、クロダイの「クロ(黒)」。岡山の特産を使っていることや、駅弁で販売した時にも魅力的に見える名前を検討し「岡山海苔弁『黒』」としました。

松本 パッケージの写真も、海苔の養殖風景を載せるのも良いのではないかと。瀬戸内海の多島美も写りますので、岡山らしさ・瀬戸内海らしさも打ち出せるということで、現行のパッケージになりました。

パッケージの左側には海苔養殖の風景、右半分に海苔の画像をあしらったデザイン

外国人旅行者に
人気となったその理由は

「岡山海苔弁『黒』」以外にも、岡山駅には数多くの駅弁が販売されている。実際に販売しているさんすて岡山にある駅弁販売コーナーで、「岡山海苔弁『黒』」の売れ行きについて聞いてみた。

大田 万美加さん 売場で多くの方がこの「岡山海苔弁『黒』」を手に取っているのを見かけます。海苔弁当というベーシックな弁当なので世代は幅広く、性別も問わないですね。あと、一般的に駅弁は平日より休日の方が売上が大きのですが、「岡山海苔弁『黒』」は曜日に左右されず毎日安定した売上があるのも特徴です。

河本 由美子さん 意外だったのは、海外の方に大変好評なこと。パッケージに筆文字で大きく商品名が書かれているので、漢字好きな海外の方に大人気です。

平木 日本の弁当はおいしくて安心な食材を使っていることや、盛りつけの美しさもポイントのようです。

大田原 朱音さん 「岡山」と打ち出していることで、岡山らしさを求めて「岡山海苔弁『黒』」を買う方も多いと思います。「岡山海苔弁『黒』」と岡山海苔天、ビールの3点セットで購入される方もよく見かけますよ。

おかやま駅弁 店長 河本 由美子さん(中央)と、クルー社員 大田原 朱音さん(左)
ジェイアールサービスネット岡山 営業部 大田 万美加さん(右)

それぞれの想いを詰め込んだ
岡山海苔弁『黒』

 海外の方に好評なのは想定外でした。開発にあたってさまざまな意見が飛び交い、やっとの思いでできた弁当です。発売後に好評だと聞いて、とても嬉しく感じています。海苔とクロダイの関係性を知ってもらい、そこにあるストーリーを感じていただけたら嬉しいです。

野崎 私たち三好野本店には「桃太郞の祭ずし」という代表商品があります。「岡山海苔弁『黒』」もそれに匹敵するようなロングセラーになれば嬉しいですね。岡山若のり・クロダイをはじめ、岡山のおいしいものが詰まっていますので、是非ご賞味いただきたいです。

松本 岡山のりを使った商品企画としては「岡山海苔天」に引き続き、第2弾となります。第3弾の商品など岡山が誇る海苔の魅力を広くしってもらう活動ができればと思います。

山本 このお弁当は、クロダイを食べて消費を拡大し、海苔養殖への被害も減らして海苔をおいしく食べようというコンセプト。岡山県漁連だけではアイデアに限界があるので、今回皆さんと協働できたことでアイデアの詰まったおいしいお弁当ができあがりました。この「岡山海苔弁『黒』」がきっかけとなって、岡山のりが広く知られるようになればと思います。あわせてクロダイのおいしさも知ってもらえたら何よりです。

(2024年5月取材)

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